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東京高等裁判所 昭和55年(ラ)1495号 決定

抗告人

有限会社祐光

右代表者

末吉茂

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一本件抗告の理由は、別紙記載のとおりである。

二抗告の理由に対する判断

抗告の理由一は、その趣旨必ずしも明らかではないが、これを善解すると、抵当権の登記後に成立したにかかわらず抵当権者に対抗できるいわゆる短期賃貸借(以下「短期賃貸借」というときは、かかるものとしての短期賃貸借をいう。)の付着した抵当不動産の競売手続においては、競売裁判所は、短期賃貸借の付着していることを前提として評価した最低競売価額のほかに、それの付着していないことを前提として評価した高い最低競売価額をも定めて、短期賃貸借の賃借人が該不動産を競落するときは、右の高い最低競売価額による競売によらしめるべきであるのに、本件競売手続において原審競売裁判所がそれをしなかつたのは違法であるというもののごとくである。しかしながら、民事執行法附則第二条による廃止前の競売法による不動産競売手続において、最低競売価額は、これを一律に定めるべきものであつて、短期賃貸借の付着した抵当不動産については抗告人主張のごとき二様の最低競売価額を定めなければならないとするいわれはない。けだし、短期賃貸借の賃借人が競落人になる場合に、短期賃貸借の付着していることを前提として評価した最低競売価額による競売によらしめたとしても、右賃借人は競落すれば、混同によつて賃借権を失つてしまうものであるから、それによつて特に有利に取り扱われるわけではなく、またそれによつて他の利害関係人が不当に権利を害されることもない。記録によれば、原審競売裁判所は、本件競売の目的となつた土地、建物のうち、建物については、短期賃貸借が付着しているので、それを前提とした一個の最低競売価額のみを定めて競売を実施したことが認められるが、これは固より適法な処置であつて、抗告の理由一は主張自体失当というべきである。

抗告の理由二について案ずるに、記録中の、不動産鑑定士河口桂之助が作成、提出した鑑定評価書の記載を検討してみると、右評価人による本件土地、建物の評価の仕方は適正妥当なものと認められ、その内容に特に不備な点は認められない。右鑑定評価書の記載によれば、本件土地の近隣域内では、環境保護のため建築行為などについて自然公園法による規制の強いことが認められるところ、右規制が本件土地、建物の評価に具体的にどのように影響したかは右鑑定評価書上明らかにされていないが、近隣及び同一需給圏内の類似地域の多数の取引事例を収集し、事情補正、時点修正を加え、価格要因による比準も行つたというのであるから、直接右規制による影響の説明が欠けているからといつて鑑定内容に不備があるとは言えない。右のとおりであるから、抗告の理由二は、じ余の判断をまつまでもなく失当である。

三他に、記録を精査するも、原決定には、これを取り消さなければならぬような違法な点は発見できない。

四よつて本件抗告は理由がないので、これを棄却することにして主文のとおり決定する。

(林信一 宮崎富哉 高野耕一)

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